いつまでドーピングを続けるの?日本銀行の異次元緩和政策を振り返る
日本銀行黒田総裁が続投決定!市場は安堵しているけれど
2018年4月に任期の切れる日本銀行総裁。その去就に注目が集まっていましたが、どうやら続投が決まったようです。総裁には引き続き異次元緩和を導入した黒田氏、その脇にいるリフレ派(※)経済学者と、日本銀行の理事出身者、という格好は5年前と全く変わっていません。
参考記事:日本経済新聞 日銀「続投でよかった」 黒田総裁に安堵
※リフレ派とは
平たく言うと「これでもか!と資金をじゃぶじゃぶ供給すれば物価は上がる」という理論。ここ数年、日本という東洋の島国で壮大な社会実験が行われ、大失敗に終わった。
黒田氏続投は「いいぞ、異次元緩和もっとやれ」のサインか?
この人事は、「まぁそうなるよなぁ」と一瞬安堵するものの、よく考えて見るとおかしな話です。なぜなら、黒田日銀が掲げてきたインフレターゲット2%が全く実現できていないからです。結果だけみれば大惨敗。しかも、毎年80兆円という国家予算規模での国債買入(というか財政ファイナンス)というドーピングを続けてきたにも関わらず、です。
スポーツでいうなら、ドラえもんの道具と筋肉増強剤をフル活用しながら大惨敗した、といったところでしょうか。
誰も異次元ドーピングから抜け出す術が分からない、からこその消極的続投
金融緩和の出口戦略を着々と進めているのがアメリカです。利上げを少しずつマーケットに織り込ませつつ、一歩一歩金融正常化に向けた歩みを進めています。それでも利上げペースが早い、等の理由で米国債10年物は2%前半から3%台目前まで金利上昇、価格が下落しました。
参考記事:日本経済新聞 金利上昇、米国株揺らす 物価や財政の動向焦点
これを見て焦った日本政府と日本銀行。日本ほど量的な緩和を大規模に行っていないアメリカですら出口を見据えた瞬間マーケットがこれだけ混乱したということは、国債発行額の8割を中央銀行が引き受けているという異常な状態の日本銀行が緩和終了を打ち出したら一体全体どうなってしまうのか、と。
FRBが採用している手法を日銀は取れません。②国債発行額の10%しか買っていないFRBのBS縮小で先週の市場の動乱です。80%も買っている日銀が撤退なら国債暴落(=長期金利暴騰)でしょう。そんな高金利では予算など組めません。財政破綻です。日銀が莫大に保有している国債の評価損も巨大化します。 https://t.co/0OqoXD1lEX
— 藤巻健史 (@fujimaki_takesi) February 17, 2018
事実、日本銀行はこっそりと市場に何も通知せず、国債買い入れ額を減額してきました。市場関係者は「ステルス戦闘機」になぞらえて「ステルステーパリング」と揶揄しています。つまり、正攻法ではまともに緩和縮小、金融正常化に向けた動きが取れなくなってしまったのです。
FOMCは今年から国債購入量の本格的削減(BSの縮小)に入った。「日銀もステルスステーパリングをしている。同じだ」という人がいるが全くの誤解。テーパリングとは80->140->170と増加額を減らすことでBSはふくらみ続ける。ダイエットを始めた人と、まだメタボに向かっている人との差だ。
— 藤巻健史 (@fujimaki_takesi) February 23, 2018
日本銀行の緩和政策を振り返る
2013年に、国債を大量に買い入れることで市場に資金を供給し、資金余剰の状態を作り出せば、人々の物価予想は上がっていくとの思惑から、「量的質的緩和策」が導入されました。
物価はミステリー。結局結果が出なかった量的質的緩和
しかしながら、日銀がどれだけ資金をじゃぶじゃぶ市場に供給しようとも、家計、企業ともにインフレ予想を継続的に高めていくことは結局できなかったのです。軽い対処療法ではどうにもならなくなった日銀は、なりふり構わずドーピングを続けていくことになるのです。国債買い入れを増額し続けるという麻薬中毒者もびっくりの政策を継続していきます。
「早期に」物価上昇率2%を達成するという目標は崩れ去りました。
本日の日経新聞3面「首相、積極財政へ布石」。又借金が増えるのか?他国は金融正常化に向かっている。当然長期金利は上昇するだろう。日本だけ、積極財政で借金を増やし本来上がるべき長期金利を「異次元緩和」で無理やり低いに押さえつける。国債残高は超極大化する。
— 藤巻健史 (@fujimaki_takesi) February 21, 2018
起死回生を狙ったマイナス金利導入
資金をがっつり増やしても物価が上昇しない!なぜだ、と不思議に思った日銀が次に思いついたのが「金融機関が悪い」ということでした。「私たちは金融機関にじゃぶじゃぶお金を供給しているのに、金融機関から市場への資金供給が変わらないから結局ダメなのだ」ということです。
「日本銀行→金融機関→企業・家計」という資金の流れなので、確かに金融機関が市場に資金を供給しなければ結局日銀がいくら国債を購入したところで、国債の主な所有者であった金融機関が資金余剰になるだけ、です。
そこで導入したのが、「おい銀行、金が余ってたら罰金とるぞ」というマイナス金利政策。各金融機関が開設している日本銀行の当座預金口座に、一定額以上の金額を預け入れると0.1%の罰金が取られる制度です。これを受けて慌てた金融機関。しかしいきなり政策が変わったところで、動きの遅い伝統的な金融機関から、そう簡単に企業や家計に資金は行き渡りません。
金融機関同士のマーケットで日本円は「粗大ゴミ」
結局金融機関同士のマーケットである「インターバンクマーケット」で資金の押し付け合いが始まります。「俺んのところ資金が余ってて日銀に罰金食らいそうだから、お前んところで預かってくれない?」「やめてよ、俺のところも一杯一杯。少しだけなら枠があるから引き受けても良いけど、金払ってね」
と、資金を引き受ける方が手数料を受け取るような状況なのです。通常資金を借りるとき、受け取るときは資金の出してに金利を払いますが、資金を引き受ける方が偉いのです。ゴミと一緒ですね。
金融機関は余りまくった資金を業界内で押し付けあっているだけ
そりゃ企業や家計に余った資金が回ってこないはずです。結果、物価上昇期待など持ちようがないのです。なぜ、もっと信用リスクを取って、企業や家計に資金を供給しないのでしょうか。「信用リスクをとる」とは、「ちょっと業績が危ないところ」にもなんとか目利きして貸すこと、です。事業の将来性を見越して、えいや、で貸すことともいえます。
何故銀行は信用リスクを取れないか(貸す先がない!というのか)
答えは、「能力がないから」「今まで金融の本質を考えてこなかったから」ということに尽きると思います。クラウドクレジットのように新興国など「本当に資金を必要としているところ」へ余ったお金を供給しようとしている金融、「雨が降っているときに傘を差し出す」金融機関がないからです。嘘のようで本当の話です。
- 決算書に乗せるために、正直借入なんて必要のない優良企業に「1日でいいから借りて」
- 手数料だけを稼ぐために、短期的な目線で投資信託を回転売買させまくる
- 拠出した元手を取り崩しているにすぎない毎月分配型のREITを購入させる
- いざとなれば不動産と給料を差し押さえれば、という考えで推奨されてきたアパートローン
本質的な資産形成から程遠いところで金融機関が営業してきたからこそのしっぺ返しです。ごく控えめに言って、クソです。書いていてだんだん頭にきました。
「短期決戦」から持久戦へ。イールドカーブコントロール
追加緩和手段が尽き、打つ手のなくなった日銀は、ついに短期決戦を諦めます。このまま年間80兆円のペースで国債を買い入れ続ければ、日本国債の価格が急騰し、金融機関も八方塞がり、一般の国民がその事実を広く知ったら消費はさらに冷え込みます。
苦肉の策としてとったのが、金利のコントロールをすることでした。しかしながらこの方法も、問題を先送りにし、持久戦に持ち込んだことに変わりはありません。
日本の物価上昇率を上げるには
非現実的な手段かもしれないですが、「日本銀行が直接家計にアクセスすること」です。間に無能で変化スピードの遅い金融機関が挟まっている現状を変えなければ結局何も変わりません。
- マイナンバーの義務化、罰則規定を強化
- 国民全員の銀行口座と結びつける(中国と同じ方法)
- ブロックチェーン技術を使って、日銀コインを発行
- 緩和効果を直接家計に
しかしながらこの制度は、圧倒的なトップダウンで進めないかぎり、中央に資産を把握されたくない高額納税者たちから大反発に遭うでしょう。臭い物に蓋をし続けた今の政治家には到底無理な話です(維新の藤巻先生は応援しています)。
Hインフレは政策ではありません。是非避けなければならない地獄で異次元的緩和の結果です。だからこそ私はHインフレを導く異次元緩和に大反対にしたのです。なのに日銀はルビコン川(一度渡ると戻れない)を渡ってしまった。もう不可避だけどせめての慰めは「世代間格差の是正」ですねという話です。 https://t.co/SjFvJsPvsz
— 藤巻健史 (@fujimaki_takesi) February 11, 2018
私も同じ思いで、ハイパーインフレなど、ルビコン川を渡った今から防げるものなら出来る限り防ぎたいのは山々ですが…
現実的な手段では、何が起こるか
薬物中毒者はいつか、破滅します。つまり、ハイパーインフレが起きます。しかしながら筆者は、ハイパーインフレは若者にとってはフェアな結果になるのではないかとも思っています。高齢者の受け取る年金や、退職金、貯めに貯めた預金が実質無価値になるからです。世代間格差の解消です。
現状を改革せず、とりあえず前例踏襲、臭いものに蓋をし続けてきた人たち(中高年~高齢者)は多額の貯金、退職金、年金が保証されています。私たちは制度が破綻しかけの時に、それでも歯を食いしばってそんな世代の年金をお守りしなくてはならないのです。子育て世代が犠牲になって、生物学的にもう役割を終えた世代を支えなければいけないのは何故なのでしょうか。自然界ではありえないことだと思いませんでしょうか。
そんな世の中、おかしくないでしょうか。頑張って道を切り開いた人が報われる、そんな世の中を若者が夢見てはいけないでしょうか。筆者は、ハイパーインフレが起きても良い、その後若者が新しい世の中を創っていけば良い、と思っています。が、一時的に大混乱に陥るでしょう。
HPインフレがあっても被害者は我々高齢者。ここまで財政赤字を膨らますのを許した我々世代の自己責任です。日本にXデーが来ても日本自体が崩壊するわけではありません。Hインフレで国の借金がチャラになるのなら若者世代は「借金ゼロ」からの再スタートです。世代間格差の是正とも言えます。 https://t.co/ojarfd5oL8
— 藤巻健史 (@fujimaki_takesi) February 10, 2018
※ちなみに、私が尊敬してやまない藤巻先生は、ハイパーインフレを推奨しているわけではありません。ハイパーインフレにならないように活動されているのですが、「もはや手遅れかもしれない」とおっしゃっているのです。その前提であれば、「世代間の格差が是正されるのがせめてもの慰めだ」ということです。誤解なきようお願いします。
ハイパーインフレに備えるには
現物資産や仮想通貨を購入しておく他ないでしょう。仮に日本円が暴落したら、世界経済も大打撃を受けることは学者でなくても、専門家でなくてもわかります。
参考記事として「日本円の価値が暴落?日本銀行の異次元緩和の行き着く先と対策まとめ」もご覧いただけると幸いです。
まとめ
いかがでしたか?一般国民ができることといえば、「ハイパーインフレに備える」という痛み止めを飲んでおくくらいのことですが、何もしないよりはマシですし、遅かれ早かれ大きなクライシスになることは間違いないと筆者は感じていますので、日本円はショートし続けます。もし何も起きなければ単なるラッキー。私の読みが当たらないことを切に願うばかりです。
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